大転換期を迎えた
放送産業双方向サービスに
ビジネスの可能性はあるか

株式会社 映像新聞社 信井 文博
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 BSデジタル放送が11月からスタートする。テレビ放送事業者はNHK,民放キー局系5社、日本衛星放送(WOWOW),スターチャンネル。独立型データ放送事業者としてメディアサーブ、メガポート放送、日本ビーエス放送、ウェザーニューズなど8社が新規参入する。
 BSデジタル放送の特徴は高画質のHDTVとデータ放送だが、とりわけデータ放送は、放送型Eコマースや視聴者のレスポンスがとれるCMなど、さまざまな双方向サービスが検討され、流通産業や銀行などから注目を集めている。
 テレビ、独立型データ放送の事業者のほとんどが、独自の番組やテレビ連動型情報を流す編成型と、銀行や小売業者などに一定の帯域を貸し出す直営型の2つのチャンネルを運営するところがほとんどだ。事業者のトップは一様に「データ放送にはビジネスチャンスがある」と話す。しかし、データ放送が本当にビジネスとして成立するかどうかについては疑問な点も多い。家庭のほぼ100%に普及しているテレビは、Eコマースの端末として比類のない存在だ。しかし、通販ではすでにインターネットの利用が急拡大している。
購入できる商品も多様だ。データ放送のEコマースや双方向サービスはインターネットという強力なライバルを相手にビジネスをしなくてはならない。
 受信機の問題もある。BSデジタル放送の上り回線の伝送容量は2,400bpsと、双方向サービスを実現するにはあまりに貧弱で、内蔵メモリーも受信機メーカーがどの程度対応するのか不透明な部分がある。
 また、ほとんどのBS事業者がEコマースなど、同様の双方向サービスを実施した場合、視聴者はそれぞれのチャンネルを趣旨選択して見てくれるのかどうかという疑問もある。地上波,BSのHDTV放送、CS多チャンネルと画面の争奪戦をしなくてはならないうえ、テレビがインターネットと接続すれば、その競争はさらに激しくなる。
 凸版印刷は、テレビ型Eコマースの代行事業を立ち上げるために設立した企画会社を解散することを決めた。懸念材料が多く、事業化は当面難しいと判断したためだ。
 独立系データ放送事業者になかにも、与えられた1.5、2.0スロットの帯域では将来性がないという声がある。プラス材料は、ソニー、松下電器産業、東芝が連合で、デジタル放送の双方向サービスのプラットフォーム、データをやりとりする規格などを統一するプロジェクトを発足することだ。これまで双方向サービスは決済・顧客管理センター間のデータのやりとりなど規格がまとまっておらず、双方向サービス実現の障害なると指摘されていた。
 今回の3社連合は、家電製品の販売が頭打ちのなかで、ハードディスク内蔵型受信機をどう売っていくかを検討した末のものとみられるが、サービスを提供する放送事業者、受ける視聴者にとって有益なことは間違いない。
 放送事業者とメーカーがコンソーシアムをつくり、意見を戦わせていけば、視聴者にとって使いやすく魅力のあるビジネスモデルを構築することはできるかもしれない。
 テレビによる双方向サービスをビジネスとして成立させるには、関連企業が自社のみの利益を超え、「新しい放送文化を創出する」くらいの視野の広さが必要になりそうだ。
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