特ラ連発足10周年を祝す
10周年記念号によせて

社団法人 日本オーディオ協会

会長 中島平太郎

 新橋田村町にNHKの放送会館があった40年近く前のことである。視聴者参加番組の制作のために、会館内に300人程度の客席をもつ公開スタジオホールが作られた。いろいろ新しい番組が企画される中で、歌手や司会者の移動範囲を客席にまで広げたいとの提案がなされた。それを実現するには、ワイヤレスマイクが必要だが、場所によっては客席向けのスピーカとの間でハウリングを起こす危険があった。
 安定な放送、客席への明瞭なPA目標に、いろいろと検討している中に、既設の天井や側壁の拡声用スピーカではうまくゆかず、思案の揚句考えたのが、隣合せた数ケの客席を対象に椅子の背に小型スピーカを分散設置する方法であった。そして20席ぐらいを1ブロックとし、その中にマイクがくると、あらかじめ測っておいたハウリングを発生する限界レベル数値に従って、ミクサーがレベルをコントロールする方法である。
 この方法は会館が渋谷の現在地に引越すまで使われた。しかし、うまくいったとばかりは言えなかった。ある時クレームがきた。地図通りにゲインを調節したらハウリングが起きたという。よくよく調べてみると、その原因は思いがけないところにあった。その日は雨上がりで、観客が折りたたみの傘を持込んだため、傘の骨がワイヤレスマイクの電界分布を大きく変えたためであった。
 今にして思えば、お粗末な話であるが、当時は大真面目にワイヤレスマイクとPAとハウリングの関係を勉強したものである。このマイクを演劇、コンサート、放送などに業務用と位置づけて、改めてその開発に着手してみると、既成技術の応用では簡単に片付かず、修得した放送の送受信機とはかなり異なる考えで取組む必要のあることを痛感した。
 送信の方は、超小型UV送信機で、数十cmのひものアンテナは移動のたびに揺れ動き、歌手に触れられる危険もある。加えて、その電力や周波数帯域はきびしい電波法の規制がり、その下での放送品質と安定性の確保が課題であった。ホールやスタジオという限られた空間に放射された電波の電界分布は、自由空間のそれとは異なって格段に複雑な形となってデッドポイントを生じ、その解決に特殊の受信機の考案が必要となった。加えて、手や身体に触れて振動雑音を生じたり、温湿度の影響で不安定になったり、移動すれば気流雑音や誘導雑音に悩まされ、使いこなしが大変重要であることも分かった。
 以上はマイク開発の駆出しの頃の思い出だが、今日では電波法もさらに整備され、マイクを取り巻く環境もよくなったと思う。しかし、舞台機構、調光、照明、空調など、ホール廻りが複雑に入り乱れる中では、昔とは異なる苦労も多かろうと思われる。ともあれ、今後、ますます出し物が多様化すれば、このマイクに対する要望と期待が大きくなるのは必定である。貴連盟のさらなる活躍と発展を心より願うものである。

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