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日時 平成15年3月17日  14時〜17時
場所 NHK青山荘  欅の間
参加者数 97名

 放送・録音関係のデジタル化が進んでいる中で、ワイヤレスマイクのデジタル化はどのように考えたらよいのか。ワイヤレスマイクはアナログでもよいのではないか、という意見も聞こえそうです。しかし各機器類の整合性という見地からすると、このままでは問題がありそうです。
 ユーザーの立場から考えると、設備の一部であり、価格は、大きさは、チャンネル数はどれくらいとれるかとか、気になるところです。
 ワイヤレスマイクのデジタル化のセミナーは今回が初めてで、松下電器産業株式会社のご好意により、ARIB(電波産業会)で試聴したシステムでお聞きいただきました。
 このセミナーの参加者の中には、遠く関西からお見えになった方もおられます。お礼もうしあげます。


1.「ワイヤレスマイクのデジタル化と技術開発の現状」
  協力:松下電器 五味 貞博(賛助委員長)、谷口 尚平(賛助委員)
<実機での試聴>
 (1)ワイアードマイク 
 (2)アナログワイヤレスマイク (800MHzコンパンダ)
 (3)デジタル方式(試作機)
の3種類で比較を行いました。

<セミナー:ワイヤレスマイクのデジタル化について>     谷口 尚平

(1)ワイヤレスの変遷、現状の課題、デジタル化について
 ワイヤレスは40MHzから800MHzに至るまでコンパンダ、ダイバシティ、PLL等の技術発展を遂げてきました。しかし、音質、混信、多チャンネル運用などユーザーの不満が残っているのも事実です。またこれらの課題をアナログで克服する事が技術的に限界に近づいてきているといえます。
 一方で携帯電話、無線LANなどのシステムではデジタル無線技術、デバイスは著しい革新を遂げて来ましたが、これらの技術では遅延、音切れ、音質などの条件を満足できず直接ワイヤレスに使用することがこれまで不可能でした。
(2)デジタル具現化の目処
 今回、松下電器ではこれまでデジタル化の最大の課題とされてきた低遅延codecを開発し、システム全体で4.65msの遅延時間で1/5圧縮、高音質を実現しました。(図1)非圧縮でAD/DAコンバータの遅延時間が約2ms程度あることを考えると、これは圧縮技術の限界に近いと思います。また携帯電話、パソコンなどに牽引されたデジタルデバイスの技術革新により数年前には実現することが困難であったこれらデジタル処理が身近なものになってきました。

(3)デジタルの可能性
 デジタル化による可能性として考えられる代表例について以下説明します。
 a)高音質と多チャンネル
 低遅延codecを用いることで20kHzまでフラットな周波数特性と1/5の伝送帯域が得られます。(図2)コンパンダよりも有線マイクに近いナチュラルな音質です。
 b)高音質と多チャンネルの選択
マイクの本数が必要な場合でも、例えばメインマイク、サブマイク等、各マイクに必要な音質ごとに(例えばフルレート、ハーフレートの様に)伝送レートを選択し、マルチレート伝送することで多チャンネルシステムを実現することが可能となります。
 c)実運用使用チャンネル増
 送信電力制御を実施することで複数波受信による3次歪特性を軽減し、さらにチャンネル間隔を狭くすることが可能になります。(図3)
 d)エリア間干渉・妨害の低減
送信電力制御を実施することで必要以上のパワーを送信しなくなるため隣接するエリア間の干渉を低減することが出来、実効チャンネル数が増加します。
 e)混信回避/自動チャンネル設定
双方向伝送を実施することで使用チャンネル、妨害波を検出し自動的に最適なチャンネルを設定することが可能となります。(図4)
 f)システム管理とユーザ付加情報
双方向伝送でマイク−受信機間のきめ細かい遠隔機能、システム管理、制御が可能となります。
以上、デジタル化のメリットをまとめると、アナログでは不可能であった、音質、混信、伝送品質などの特性を向上した上で、多様か
つ柔軟なワイヤレスマイクシステムが可能となることと言えます。(図5)
 以上の解説のあと、来場者全員に3種類の方式で実際に比較試聴していただきました。それによると4.65msのディレータイムはあまり感じられないという意見があったようです。これは私見ですが、なにやら背中から圧迫を感じるようでした。


図1 低遅延:高音質、狭帯域、低遅延の実現
図2 低遅延codec:コンパンダからの音質改善 〜 高音質と多チャンネル
図3 送信電力制御:実運用使用チャンネル増
図4 双方向伝送:混信回避機能と自動チャンネル設定
図5 (まとめ)
機能実現、多様かつ柔軟なシステム


2.パネルディスカッション 「デジタル化に何を望むか」
司会 田中技術委員長
 パネラー:八幡理事長、田中技術委員長、飯田幹夫(ソニー株式会社)、志村明(有限会社スターテック)

八幡理事長
 A型ワイヤレスマイクの普及には目覚しいものがあり、安定度の高さで音声の収音には標準装備品となっている。また普及故にユーザーの希望も具体的になってきており、音質面においてはワイヤードとの馴染み、コンプリミッターの特性、チャンネル数とか、これらはデジタル技術で解決出来るものがあろうかと思う。
左から志村明氏、飯田幹夫氏、八幡理事長、田中技術委員長
田中委員長
 現在の特ラ連の会員が所有するA型ワイヤレスマイクは7,050本、放送局が約10,000本、稼動総本数が17,000本にもなる。波不足から運用・調整が煩雑をきわめているのが現状。このような時期に、ARIBへ松下電器産業からデジタルワイヤレスマイクシステムの提案があり、議論の結果、検討報告書にして提出し、デジタル化へ動きはじめた。
 OFDMの普及、それらとの整合性を考えると、ワイヤレスマイクのデジタル化は必須のものとなろう。ユーザーの要求を充分検討した上で進める必要があろう。
飯田幹夫
 デジタル化はまず伝送系が改善されるだろう。アナログとデジタルが混在して運用されるとなると、相互妨害干渉についての実験が必要と思う。双方の周波数帯が異なれば相互妨害は軽減できるだろうし、OFDMとの検討も必要で、デジタルはアナログに比較して相互妨害干渉が軽減されることに期待したい。
志村明
 コンサート業界においてはワイヤレスマイクは定着してきた。ミュージシャンの要求も増えてきている。30波使用というコンサートツアーもある。このようなことから慢性的波不足で頭が痛い。デジタル化によってチャンネルの増加、電波の安定性の向上、エリア拡大、音質の向上などが実現できればと思う。
ディスカッション及び質疑の抜粋
 ◆ 楽器そのもののデジタル化が進んでいる
 ◆ デジタルは専用波がもらえないだろうか
 ◆ 製品の互換性はなんとかならないか
 ◆ 質問:デジタルでチャンネル数は増えるのか
 ◆ 答:今日のテスト機では同数はとれるでしょう
アンケートを来場者全員にお願いしましたが、集計が間に合わず、結果は次号に掲載予定です。