近年1000人以上の劇場で催される演劇等において20本近くの2ピースワイヤレスマイクの使用が当たり前になっています。それに伴い電波の周波数割り当て、マイクヘッドに対する汗対策養生、トランスミッター用ウェストポーチ、ベルト作成などが必要になってきた結果、舞台音響の分野ではワイヤレスマイクケアといった専門職が確立されてきました。また出演者の肌に直接触れる作業が多々あるので主に女性が担当になっている場合が多いようです。
 汗対策に関しては皆さん試行錯誤しながら様々な方法を講じられていますが、水分に影響されない、かつ従来同様の音質が得られるマイクの開発がなされないかぎり、これといった万全解決策はないのが現実です。
 本レポートではマイクヘッドおよびトランスミッターに対する汗、湿気対策養生の方法についてまとめてみましたが、これは一つの方法論であって絶対的なものではありません。

<2ピースマイクの装着と汗について>

 出演者にマイクを装着する時、TV等で良く見られる胸付け、耳にかける耳付け(片耳)、両耳にかけるヘッドセットのいずれかを使用すると思います。
 座談会、朗読劇などでは胸付け集音が採用され、マイクの汗に対する対策はそれほど必要ありません。
 激しい動きを伴う演劇、ダンスなどでは片耳あるいはヘッドセットタイプを装着することになりますが頭部に近い為汗対策が必ず必要になってきます。


 激しい動きをする出演者は頭部全体から汗が吹き出し、皮膚と髪の毛を伝って落ちてきます。耳付近に装着したマイクには汗がマイクケーブルを伝わってマイクヘッドに到達し、ヘッド頭部に水玉のように付着します。(図1)
 このような状態になると、汗がフィルターとなり正常な音になりません。いわゆる鼻づまり音になります。この場合ヘッドを指で軽く叩いて汗を飛ばしたり、ティッシュで吸い取ると正常に戻ります。
 しかし汗がカプセル内の振動板まで達すると、振動板のコイルがショート状態となり、音が出なくなりマイク交換といった処置をすることになります。また一度振動板まで汗が入ったマイクは汗の塩分で振動板に錆が出てしまうので廃棄処分にしなければなりません。

<「Red Cliff 戦」におけるマイク養生>

2011年8月13日024日まで東京青山劇場にて、劇団EXILE W-IMPACT「Red Cliff 戦」が上演されました。
映画「Red Cliff」の舞台版で、曹操孟徳(MAKIDAI)から見た乱世の中国を描き、幼少の孟徳〜赤壁の戦い〜魏、呉、蜀の三国が建国されるまでを描いた舞台でした。
 タイトル通り大勢の役者の激しい殺陣の連続で、汗対策に対する養生には大変神経を使いました。
 実際にはMAKIDAIさん、平沼さんにそれぞれ一度づつ汗が入りコワコワ音になってしまいました。
 動きが激しいのでSennheiser MKE2はヘッドセットフレームを作りそれに装着し、他はDPA4066、DPA4088を使用しました。

■MKE2の養生

<必要な物>
<必要な工具>
<養生の方法>

<吸収体の交換について>

汗を吸った吸収体(D)はつぶつぶのゼリー状に固まります(写真4)。この状態になったら速やかに新しいものと交換します。吸収体は汗を吸っても乾いたらもとの状態に戻りますが、吸収率は下がっています。乾くのが早いので、マイクを回収したらすぐに汗を吸っていないかどうか、取り替えが必要かどうかを触って確認するのが大切です。

■トランスミッターの汗養生

 マイクケーブルに付着した汗がトランスミッターに流れ込まないように、コネクタ部分にも汗養生が必要です。

<必要な物>
<必要な工具>

(1) I(ビニール手袋)の五本指のうち、トランスミッターのマイク接続部分に近い指の先を切ります。(普通は人差し指か薬指部分) 切り口からMKEを入れ、切り口をねじります。ねじった切り口の上から防水テープを隙間があかないようしっかりと巻いて止めます。
トランスミッターをIの手首部分から入れ、マイクコネクタと接続します。(写真5)


(2) トランスミッターを入れた I を折り畳み、ちょうどいい大きさのジッパー付きビニール袋(J)に入れ、ジッパー部分をとめます。(写真6)
 使用回数が多くなると破れたり劣化していくので定期的に新しいものと交換するようにします。
 なおこの部分は体の近くに装着されるため、体温が伝わりやすくなります。その場合I(ビニール手袋)の中が高湿度になりますが、それに対する養生は行っておりません。
 高湿度の影響としては、トランスミッターの金属部の腐食、錆の発生があります。これは、時間と共に増えていくもので日頃のメンテナンスによって改善されるものと思われます。

■DPA4066,4088の養生

 DPA4066または4088はあまり汗養生はしないで使用しました。汗を多量にかく人の場合は以下のように対処します。
 DPA4066または4088の口元に伸びている部分に細めに切った吸収体(=D)を巻き、Eのテープを上から巻きます。(写真7)
 他の方法として、コットンに防水スプレーをしみこませ、マイクブーム(口元に伸びている部分)を拭き、防水効果を持たせます。
 また装着時にマイクブームが肌(頬)にぴったり付かないように注意すれば、汗が入ることは少なくなります。

<あとがき>

 弊社が担当する舞台はいつも激しい動きがあります。そのために準備にも時間がかかります。そうした状況の中でのマイク養生の方法は、弊社で考え出したものばかりではありません。様々な音響会社、音響家の方の養生のやり方を見聞きし、それぞれの良い方法を採用させて頂いて、そこに自分のアレンジや新しく考え出した養生方法を加えて今の形になっています。
 将来、新たな材料や方法が出てくるでしょうが100 % 汗が入らないといった方法はなかなか見い出せないでしょう。しかしその確率を下げる努力は続けなければならないのです。この地道な作業と努力も舞台を支えているということも忘れてはならないと思います。