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 「振動板のないマイクロホン」 (第1稿)
講 師:早稲田大学  教授 山崎 芳男    
 平成20年度 特ラ連総会でのセミナーの模様を抜粋してご紹介いたします。
☆はじめに
 早稲田大学が2000年に本庄の里山に大学院国際情報通信研究科のキャンパスを移した際に、音響学会に属しておりまして音声を専門とする総長の白井克彦は世界一の音響研究の拠点にしようと申しました。世界一はおこがましいのですが、本庄ならではの都心ではできない実験室、装置を造り、今日ご紹介する音波をレーザを使って可視化するなどの成果を得ております。
☆研究・教育 背景
 私(山崎)が小学生の頃は地球の人口20億でしたが、今は68〜70億。京都議定書の炭酸ガスの問題、あるいは食糧、水等、解決しなければならない問題はいろいろありましょうが、地球がかつて経験したことのない人口を抱えていることは確かです。戦争や疫病といった悲惨な結末ではなく、100億に迫ろうという人間が地球に住み続けるには、省エネルギーと多様な価値観の共存、多様な文化や人々のコミュニケーションが最重要な課題ではないでしょうか?特にわれわれの扱っている音によるコミュニケーションは重要だと思います。
 どんどん登場する新しい技術やものをそのつど追ってもきりがないので、何にもどこにでも通用する原点、基本の追及こそが今大学に求められているのではないでしょうか。基礎学力、Simpler the better、単純なもの、ほんものを自らの手でをめざして、研究・教育を進めております。
参考:小規模・自給自足を目指した熱音響システム
  http://ci.nii.ac.jp/naid/110006202144/ 

☆講演メニュー
 本日は右の枠内に示すような課題に沿ってお話を進めてまいります。

☆教室の音響課題
 この会場では前の平面スピーカから音が出ているようですが、実は早稲田大学の大型教室では私どもの設計した独自の平面スピーカを使っております。
 天井や壁に埋め込まれた通常のスピーカでは先行音定位により近くのスピーカから先生の声が聞こえてしまいます。行儀の良い学生が先生の方ではなく近くのスピーカの方を向いて講義を聞く光景すら目にします。平面スピーカを使うと教室のどの位置でもほぼ同じ音が教卓のある前方から聞こえ、学生の目も必然的に前を向きます。最近は1枚32cm x 32cmに、1cm弱の間隔に千個以上の小さなネオジウムの磁石を置き、一筆書きのようにアルミを蒸着したフィルムを振動版にした構造、いわば1024個の小形スピーカが集まった平面スピーカーできるだけたくさん教室の前方の壁に設置しています。平面スピーカはスピーカの直前で話しても、遠隔講義をしてもハウリングが起きないといった利点もあります。
 ワイヤレスマイクは大学の中で非常に大きな問題です。講義室で使ってうっかり持って帰る。どこから持ってきたか解らないのでその辺の教室に返す。当然、チャンネルプランが狂い大変なことになるのですね。
早稲田大学の本庄の教室ではどの教室も同じ光ワイアレスマイクを使っています。光は部屋の外には漏れませんので、マイクを入れ替わっても問題は起こりません。
これは最近登場したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクです。これ、アーアー、今、MEMSマイクから音がでている、MEMSというのは1mm角くらいの小さなマイクロホンです。マイクロホンでは振動板を小さくしていくと高音まで特性は伸びるけれども、S/Nは悪くなるというのが常識だったのですが、これはこんなに小さいのに十分使える程度のS/Nを持っています。
 われわれは、Simple as the better の観点からもディジタルだけで音が扱えるという点からも、積極的に高速1ビット信号処理を提唱、使っていますが、1bit出力が直接出ているMEMSマイクがあります。今日は有線で繋いでいますが、高速1ビット出力にLEDをつなげば光ワイアレスマイクが簡単にできます。振動板はあるのですが、振動板自体は見えないようなワイアレスマイクロホンもかなり使えるところまできています。

☆レーザードプラマイクロホン
 振動板のないマイクロホンには前ページの枠内のような手法がありますが、ここでは「レーザードプラマイクロホン」についてご紹介をします。基本的にここに反射鏡をこう置いて、レーザー光がここに戻ってくるようにする。これを細かくすば、原理的にはここの面積分だけでヘリコプターの羽のようなものですけれど、こういう振動板というか、ここに入ってくる音波の粗密がレーザー光の速度に反映されます。この干渉によるレーザー光の周波数変化を測定します。本来、このレーザードプラ振動計というのは振動体、自動車のエンジンとか車体の振動を、非接触で観測する目的で作られている測定器です。
 この原理を使って、レーザー光を剛壁にぶつけて、CT、コンピュータトモグラフィを使って3次元空間の音波を直接見ることに成功しました。手前味噌かもしれませんが、おそらく世界で始めて、長年の夢であった音を直接見ることができるようになりました。
 実際、全く動かない剛壁っていうのは無いので、最初は別の測定器で壁の振動を測り校正していましたが、本庄の実験室の60cmのコンクリート壁を使うとほとんど動かないの壁とみなせます。このテレビカメラような装置が、レーザースキャニングバイブロメーターです。この装置を使うとミラーを使わなくてもコンクリート壁の反射だけで広い範囲の測定が可能になりました。ミラーも必要ありませんしと、自分でスキャンをしてくれます。こういう範囲をスキャンしてやるのですけれど、扇形のスキャンになるので、定量測定をするには補正が必要です。
 これは、4KHzの正弦波をヤマハのNS-10Mに入れるところなのですが、ここにありますように振動速度が明るいほうが強い、ちょうどツィーターの前が明るくて、後ろは暗く、前は、、だんだん暗くなってきて球面波が出ている様子が分かります。さきほど申し上げましたように扇形にスキャンしていて、これは何の補正もしていない生のデータです。次のこれはそこにあるのと同じような、早稲田で使っている30cm角の平面スピーカー、一つから出たもので、平面波が両側に出ています。昔からマイクロホンをスキャンして、あるいはそれでランプをつけて乾板で写真を撮ったり、いろいろと、我々、音響屋としては音波面を直接見たいというのが長年の夢でした。おそらく、世界で始めて可聴領域の音をそのまま可視化できるようにしたものです。これは非常に有効です。たとえば、スピーカーのボックスのエッジの形状とかの回折なんかを見たりする。ここのように正弦波ではなくパルスを使用することにより、回折による波面の状態を直接観測できます。
 さらにCTコンピュータトモグラフィの理論を導入すると、3次元音場の任意の位置の音波の観測が可能になります。普通はX線と感光板を回転させるですが、この装置は大きいのでこのようにスピーカを回転台に置いて1〜10度毎に測定しています。
これはNS-10Mのスピーカーから10cmの面の様子です。縦軸は拡大していますが、それぞれの平面とこれは鳥瞰したものです。この研究は既に卒業した学生のものですが、下記に論文が掲載されていますのでご参照ください。
参考:信学技報・「レーザーCTを用いた音場の3次元測定」
http://www.acoust.rise.waseda.ac.jp/publications/happyou/ieice/ieice-ikeda-2004dec.pdf

注:レーザードプラー振動計につきましては下記のURLをご参照ください。
・小野測器-振動とそのセンサーについて-3
  http://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/vib/vibsensor_3.htm
・ポリテックジャパン PSV-400-3D スキャニング振動計
  http://www.polytec.com/jpn/158_918.asp
・ポリテック会社紹介、WMVファイル(Video WMV)
  (Vibrometer Video - ポイントとダウンロード)
  http://www.polytec.com/jpn/158_918.asp
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 この他にも2003年に成田空港の第2滑走路ができたときの航空機騒音測定を同様な方法を用いて行ったお話などがあり、修士課程2年の酒井寿理さんからは

1、超音波ドプラーマイクロホン
2、高速度カメラを用いた収録

のご紹介がありました。大変興味深いお話でしたが、紙面の都合で今回は省略させていただき、いずれ機会がありましたらご紹介いたします。
(記:中島)
山崎芳男 略歴
 1968年早大・理工・通信卒、1970年同大学院修士課程了、以後、早大理工学研究所、千葉工大情報工学科、早大理工学総合研究センター、早大国際情報通信研究センター、早大国際情報通信科において音響学、ディジタル信号処理、建築音響等に関する研究に従事、2003年〜2005年日本音響学会会長、電子情報通信学会フェロー、現在、早大国際情報通信科教授。1984年、1990年音響学会佐藤論文賞受賞。工博(早大)。
著書“サウンドエンジニアのためのディジタルオーディオ” 共書 他多数。
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