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第31回

「400MHzから800MHzへ   私の収録テクニック」

内海 浩義


・私が使ってきたワイヤレスマイクロフォン
 私がワイヤレスマイクロフォンと付合い出したのは、20年ほど前になります。入社2,3年目からENGロケーションに出だしました。その頃使用していた機材は、4chミキサー(シュアー製)、ガンマイク(ゼンハイザーMKH-815)、ハンドマイク(サンケンMS-7C)、有線ピンマイク(ソニーECM-44)、そしてワイヤレスマイクでした。当時は、ワイドショー等のENGロケがほとんどであった為、このくらいの機材で、たいていはフォローできていました。この時使っていたワイヤレスマイクがなんと弊社製で当時の社長(現特ラ連監事金子孝さん)が開発をされたものでありました。
 400MHz帯で、送信機とワンピースとなっているハンドマイクが付いていました。このとき他の撮影クルーが使っていたワイヤレスマイクは、マイクロン製のものだったと記憶しています。このワイヤレスマイクにはワンピースハンドマイクは有りませんでしたので、送信機にケーブルを付けMS-7C等のハンドマイクをつなぎ使用していました。
 ワイドショー等のロケでは必ずレポーターが居ましたので、ワイヤレスハンドマイクの使用頻度は大変多かったのです。このワンピースハンドマイクは、ケーブル等が必要ないのでスマートでレポーター陣にも評判がよく大変重宝した思い出があります。現場主義で開発されたんだなと感心しました。
 このワイヤレスマイクの周波数ですが、マイクロンが使用している周波数(周波数は現在のように変えることはできず固定だったので、マイクロン等を数種用意していた他クルー同士は、同じ周波数になり混信を起こすことが多々あった様である)と少しずれていて、他のクルーが混信を起こしていても、私はレポーターにワイヤレスハンドマイクを渡すことが出来たわけです。これには大変助かった思い出があります。
 当時各テレビ局ワイドショー全盛の時代で同じ現場に撮影クルーが10クルーほど集まることが多々あり、他クルーが混信を避ける為、有線マイクに切り替えていても、私は何も気にせずワイヤレスマイクを使うことができました。
このワイヤレスマイクの性能ですが、まず飛びとしてはせいぜい20から30mが限度でした。そしてバッテリーは送受信とも単三電池アルカリ一本で1時間だったと記憶しています。
 安定度としては、今とは比べられないほど不安定で、調子のよいときはいいのですが、だめなときは、目の前でも飛ばないというものでした。常にガンマイクをスタンバイしておき飛びの悪いときはフォローしなければならないというものでした。この頃私は、今日は調子が良いようにと祈って現場に出ていたような気がします。
 その後、弊社では、技術開発セクションという部署をつくりワイヤレス等の開発を本格的に取り組むことになりました。そしてWL-800というワイヤレスマイクができました。これは800MHzになり筐体もずいぶん小さくなり重量も軽くなりました。周波数は固定でしたが、これにもワンピースハンドマイクが用意されていて、形がシュアーのSM-63のようになりとてもスマートなハンドマイクでした。音質もだいぶ改善されバッテリーの持ちも5、6時間とよくなったと記憶しています。
 このあと開発したのがWL-90です。この機種の規格は、現在各社から発売されている製品と同じで、周波数が変更可能となり、受信機はダイバシティー方式となりました。
 この機種の印象としては、近距離での使用時の安定度がだいぶ増し、送信機1台に付き受信機を多数使えるので今まで不可能だった、複数の場所での受信が可能になりこれはかなり画期的なことでした。ですが同時使用波数は4波がせいぜいだったと記憶しています。
 そしてこの機種の後継機として現在使用しているWL-900を開発しました。WL-900の開発を最後に諸事情により弊社の技術開発は終了する事となりました。
 この間に、ベストセラーとなったキャッチミーも開発しています。皆さん一度は使ったことが有るのではないかと思うくらいメジャーになった製品です。よくバラエティー番組などで、演出や出演者の方から「キャッチミーありますか」などと名指しで呼ばれるほどで、ワイヤレスの送り返しシステムの代名詞に成ってしまったほどです。

・現在使っているワイヤレスマイクロフォン
 ここまでは、弊社で開発し私が現場で使用してきたENG用ワイヤレスマイクを書いてみまた。今では弊社も、ラムサ、ソニーの製品も導入しWL-900と併用し運用しています。
近年弊社の音声業務がENGロケーションではなく、音声ベースをしっかり組んで行うことが多くなり、ワイヤレスマイクも同時に10波以上使用することが多々あります。
 現在のものは、通常距離での使用ではノイズやとびが悪いなどということなく非常に安定していて、距離を稼ぎたいときなどは、受信機に八木アンテナやポール型アンテナなどを使用すれば、しっかり距離を伸ばしてくれます。そして10波以上の同時使用時も周波数の組み合わせさえしっかりすれば混信もせずに安心して運用することが出来ます。私がワイヤレスマイクを使い出した頃から考えれば、夢のようなことです。いつも優秀だなーと感心してしまいます。
 現在私などのようにテレビ関係の音声をやっていると、ワイヤレスマイクが一番使用頻度の高いメインマイクになっています。今後、デジタルワイヤレスマイクの開発もされ、もっともっと使いやすく、そして安定した運用が出来るようになっていくことを望みます。

・ワイヤレスマイクの仕込み方
 ここ数年ドラマ等の収録で行っていた、ワイヤレスピンマイクのヘッドを映像に映らなくするために、服の中に仕込むという方法をドキュメンタリーやバラエティーの現場でも要求されることが多くなりました。動きの少ない時はよいのですが、特にドキュメンタリー、バラエティー等では動きがあり、衣擦れが発生してしまい、うまく収録出来ないことがあります。これをお読みになっている方の中にも苦労されている方がおられると思います。
 最近私が気に入っている仕込み法を紹介したいと思います。写真のような仕込み方でこの衣擦れを回避しています。まず服地屋さんに行き、フェイクファー(偽物の毛皮)を購入します。出来るだけベース部分(毛皮を付けている布の部分)の目の荒い物が良いようです。次にセーム革を用意します。まずマイクヘッドの大きさ位にセーム革を丸めたものを2つ作ります、これは、形を整えるためのものです。そしてヘッドを真ん中にして並べます、周りをセーム革で一巻しその周りに両面ガムテープを巻きます。そして片面にフェイクファーを貼り付けます。これで出来上がりです。言葉では解りづらいと思いますので写真を参考にしてください。ガムテープを直接ヘッドに巻くと、取る時にヘッドを傷める可能性がありますが、この方法ですと傷めることも無くセーム革がクッションの役目をし振動がヘッドに伝わるのを防ぐ様です。衣擦れもフェイクファーのおかげでだいぶ軽減されます。
 屋外の収録時などで風に吹かれるときは、フェイクファーをヘッドの面まで覆ってしまえば風防の役目になります。皆様はどのような方法で仕込んでいるのでしょうか、いろいろ工夫されていることと思います、機会があればぜひお聞きしたいところです。

株式会社 東京サウンドプロダクション 撮影センター 音声課 内海浩義


内海 浩義  経歴
1981年 音響効果部(現オーディオセンター)に入社
1992年 音声課を撮影センターに設けることになり移動する。
音響効果時代の10年間テレビ朝日を中心に生放送、ドキュメンタリー、歌番組等のテレビの効果マンを行う。一方で平行して入社2年後位よりENGの音声としてロケも行うようになる。撮影センター移動後は、音声を専門として現在に至る。

  
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