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 2003年12月から東京・大阪・名古屋において地上デジタル放送が始まりました。地上デジタル放送のメインサービスはハイビジョン放送であり、これまでの放送番組は標準テレビからハイビジョンへと移行します。そういった流れの中、従来はロードレース中継等において標準テレビでの伝送が主体だった800MHz帯OFDM-FPUでもハイビジョンで伝送が行われるようになりました。
 非圧縮でのハイビジョン(約200万画素)の1画面は、標準テレビ(約40万画素)の5画面分に相当します。つまり、ハイビジョンの情報量は標準テレビの5倍になります。この関係は、丁度連絡無線とラジオマイクの関係に似ています。表1に連絡無線とラジオマイクの比較を示します。表1より、ラジオマイクのベースバンド帯域幅(約15kHz)は連絡無線の帯域幅(約3kHz)の5倍です。これは、ラジオマイクの情報量が連絡無線の5倍であることを意味します。情報量が5倍あると、電波に乗せて伝送する際の周波数帯幅も、連絡無線の20kHzからラジオマイクの110kHzへと、約5倍必要になります。
表1 連絡無線とラジオマイクの比較
連絡無線 ラジオマイク
品 質 電話相当 FM放送相当
ベースバンド帯域幅 300Hz〜3.4kHz(約3kHz) 50Hz〜15kHz(約15kHz)
周波数帯幅 20kHz 110kHz
 表2に標準テレビとハイビジョンの比較を示します。表2より、ハイビジョンのベースバンド帯域幅(30MHz)は標準テレビのベースバンド帯域幅(6MHz)の5倍です。これをMPEG2で符号化した場合、放送品質ビットレートは標準テレビで3〜4Mbit/s 、ハイビジョンで15〜20Mbit/s となります。映像加工や多段伝送が必要な放送番組用素材伝送ビットレートについては、放送品質の3倍のビットレートが必要で、標準テレビで9〜12Mbit/s、ハイビジョンで45〜60Mbit/sとなります。800MHz帯の1ch分(9MHz)を用いることで丁度素材伝送品質(9〜12Mbit/s)の標準テレビが伝送できます。しかし、素材伝送品質のハイビジョンを伝送するにはその5倍のビットレートを必要とし、周波数帯域幅としては5ch分(45MHz)必要となります。
表2 標準テレビとハイビジョンの比較
標準テレビ ハイビジョン
ベースバンド帯域幅 〜6MHz 〜30MHz
放送品質ビットレート 3〜4Mbit/s 15〜20Mbit/s
素材伝送品質ビットレート 9〜12Mbit/s 45〜60Mbit/s
必要な周波数帯幅
(移動伝送時)
9MHz 45MHz

 しかし、800MHz帯には全部で4ch分(36MHz)しかない中でハイビジョン伝送を2回線分確保するために、止むを得ず必要な帯域幅の半分にも満たない2ch分(18MHz)でハイビジョン伝送を行い、素材伝送品質ではなく放送品質ビットレートで妥協して運用しているのが現状です。特にロードレース中継等については、移動伝送に適した800MHz帯の電波を使う以外に伝送手段がありません。図1に示すように、800MHz帯FPUは、2,4chをラジオマイクと共用しています。ハイビジョン伝送を行う、ということはラジオマイクとの共用チャンネルである2,4chを使用する機会がこれまで以上に増えることにつながります。
近年、MIMO(Multi Input Multi Output)という伝送技術の研究開発が各方面で盛んに行われております。この技術は、丁度図2に示すように2本のマイクを使用し、希望音(コーラス)と妨害音(トラックの騒音)との時間的・空間的な相関の違いを利用して希望音だけを分離するのと似ています。具体的には、図3に示すように2本の受信アンテナを使用し、希望波(ラジオマイク)と妨害波(800MHz帯FPU波)との時間的・空間的な相関の違いを利用して希望波だけを分離することができる技術です。800MHz帯FPUのユーザであると共にラジオマイクのユーザでもある放送事業者として、互いの干渉の問題に技術的な解決策を提供し、共存共栄の道を探っていきたいと考えております。


図1 800MHz帯FPUのチャンネル配置


図2 MIMO技術で妨害音を消す

図3 MIMO技術で妨害波を消す
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