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 今回 現在、現場で使い慣れている、「A型ワイヤレスマイク」という呼称は電波法上ではA型ラジオマイクと定義付けされている。今後このデジタル化を機にワイヤレスマイクという呼称は止めて、ラジオマイクにした方が良いではないかとの議論(ARIB・ラジオマイクWG)もあるが、今回の理事会説明にはワイヤレスマイクとした。
 まず、デジタル化への過程はどうであったか、そして現在どういう状況にあるかを説明してから、意見交換とした。

1.デシタル化への過程
 いつの時点で、ワイヤレスマイクのデジタル化が議論の遡上にのぼったかは、ARIB・規格会議・小電力無線作業班・ラジオマイク分科会(略してラジオマイクWG~ワーキンググループ)の下にデジタル化検討タスクグループを構成し、ワイヤレスマイクの高度化の手段としてデジタル化の可能性を検討し、技術的課題を抽出してH12年(2000)6月に「デジタル化検討TG報告書」がまとめられたことに始まる。その当時としては実現が難しいとしつつも、ユーザーとしての要望事項には、チャンネル数、音質の確保(ダイナミックレンジ)、遅延時間等が最重要度として上げられていた。
 その後、技術の進展と周囲状況の変化それにメーカーの技術開発により、デジタル化を実現する上で最重要課題の一つであると思われた遅延時間について、音声信号圧縮技術(CODEC)や高音質の伝送方法が開発されて、H14年4月第13回ARIB・技術委員会・素材伝送開発部会・地上無線素材伝送作業班・音声グループ(略して素材伝送音声WG)会議に実験段階の試作機が登場する事になって、大きくデジタル化に向け前進した。
 特ラ連でも平成15年3月17日に特ラ連セミナーとして「ワイヤレスマイクのデジタル化を考える」を催して、松下電器産業の試作機でデモストレーションをし、その後セミナーも実施して、デジタル化に対しての要望事項などを聞き活発に議論した。大変好評で入場制限までした。
 この様な具体的な動きを受けて、「デジタル化検討TG報告書」を提出後、休会していたラジオマイクWGも活動を再開し、素材伝送音声WGにA型ワイヤレスマイク・デジタル化の技術的条件の検討と実験結果検証を依頼(H15年3月3日)した。ラジオマイクWGではユーザーニーズなどの現状分析と基本的な課題検討をすることになり、合わせてB型、C型、D型も引き続きラジオマイクWGで議論していくことにした。
 このように現状分析と技術的条件の検討・実験結果を受けてA型ワイヤレスマイクのデジタル化の技術基準策定および技術条件の応用展開の可能性を見極て行くことになった。
 日程としてはH15年10月より情報通信審議会、H16年4月から電波監理審議会、同年7月告示を基本に考えられているが、ある程度の延伸するのではないかと思われる。
 次に、原点に戻って何故、デジタル化する必要があるのか。アナログに比較して何が良くなるのか。 

2.デジタル化に期待する事
 デジタル化は時代の流れである、H15年12月にはテレビ地上波デジタル放送の開始で多チャンネル化、高品位化、双方向性、情報端末器化等のサービスが始まる。また、時同じくして中波放送のデシタル化放送が決まっている。
 A型ワイヤレスマイクを取り巻く状況は、音声・映像系のシステムがデジタル化されつつあり、そのシステムとの整合性も含めて、A型ワイヤレスマイクのデジタル化を積極的に進めて行く時代に入った。
 又、A型ワイヤレスマイクと周波数を共用している800M帯FPUは、既にOFDMでテジタルの規格が示されたことにより、A型ワイヤレスマイクがアナログでは運用上多くの面でハンデを持つことに成りかねない状況になっている。
 A型ワイヤレスマイクにデジタル化のメリットを充分に発揮させることで、高音質化、多機能化、簡単運用、電波伝搬の安定化、混信回避、多CH化などを初めとして、将来にわたって、ユーザーの求める機能の拡張性と多様化、演出形態の多様性にも充分対応出来、更に電波の有効活用も目指していきたい。同時に更なる遅延時間の短縮、電池の長寿命化、送信部の小型・軽量化は今後の技術開発を期待したい。
 デジタル化を機に音声専用の使用周波数帯域の設定なども改めて主張していきたい。
 アナログは既に完成された域にあり、多くの面でデジタルに比して将来性、拡張性は望めない、デジタル化時代を迎えて、部品補給も厳しくなってくる。
 次は、ARIBで具体的に意見交換している内容は

3.技術的検討事項とユーザーニーズの現状分析について
(1)実験タスクグループによる実験方法と内容
  @基本性能測定(静特性)・A(実用特性)。B屋内電波伝搬。C見通し屋外電波伝搬。D隣接/次隣接及び同一チャンネル干渉。E現行800メガ帯びFPUとの干渉。F800メガ帯OFDM・FPUとの干渉。G現行アナログラジオマイクとの干渉。H携帯電話基地局からの干渉等で、この実験には4社(ソニー、松下電機産業、タムラ、TOA順不同)が実験局の申請書を提出して受理されてます。 
(2)ラジオマイク 検討報告書の内容
  @検討の概要。A諸外国の技術基準。Bラジオマイクの利用状況。Cラジオマイクに要求される条件。Dラジオマイクの技術的条件。E標準規格案。その内DとEは前述(1)の実験を踏まえて素材伝送音声WGで対応し、他はラジオマイクWGで対応している。
  Cは放送分野、舞台芸術分野、一般業務分野に分れられていて、その中の舞台芸術分野を特ラ連と関係する団体でコンサート、ミュージカル、インイヤーモニターに分けてまとめることになった。
   内容的に、概ね遅延時間は5msecを上限として、更なる短縮。ダイナミックレンジは最大を120〜140dB。同時運用必要チャンネル数は現状運用出来る34ch最小数として50chないし60chまで。周波数範囲はケースバイケースとしながらも最大20Hzから20kHz等を提案中である。この数値については放送分野ともそんなに大きなへだたりはない。秘話性についても言及しておきたい。
(3)技術検討項目絞込み具体化検討(資料−2)  
   余り細部まで規定しないで、汎用性を持たせて将来に自由度を残しておく方向で考えている。
  一般条件として、通信方式は現状の単向・同報(双方向)。変調方式D8PSKまたはπ/4シフトQPSK。伝送速度・音声符号化方式・誤り訂正方式などは規定しない。
  送信装置はほぼA型準拠。受信装置は基準受信感度32μV以下、スプリアスレスポンスは50dB以上@BER1e−5、50dB以上@BER1e−2又は規定しない。隣接チャンネル選択度・相互変調特性は30dB以上@BER1e−5、50dB以上@BER1e−2又は規定しない等になっている。
 今後ユーザーニーズの整理、基本性能確認実験を経て定めていくことになっている。まだまだ実施テストで問題点を把握、対応していく必要がある。
(4)デジタル化試作機(松下電器産業)の諸元
  送信周波数は現A帯ラジオマイクと同じ、伝送速度は192ksps(128ksps)、変調方式はD8PSK−遅延検波、誤り訂正方式重み付け畳み込み符号化−ビタビ復号。オーディオ部はサンプリング周波数48kHz(32kHz)量子化ビット数20bit、コーデック方式はサブバンドADPCM独自方式など。
 以上のような現状を認識して、意見交換した。

4.意見交換
(1)多ch化について

 デジタル化の大きなメリットである、ch不足で多ch化をぜひ実現して欲しい。   多ch化では携帯電話が技術開発で先行しているのではないか、この携帯電話の技術を応 用出来ないものだろうか。
  ユーザー側が要望する高品質化(ダイナミックレンジ・周波数帯域等)をどう捉えるかとの密接な関係にある、現場の意見を1つに集約することは出来難い。
  現実的には使用目的に合わせて何段階かに品質切替して多chを求める事になるのか。
  この様な使用環境条件下で高音質化と多ch化の両立は容易でないと思われる。
  基本的に使用出来る波が少なく、しかも音声専用でなくFPUと共存している事も、この際解決したいところである。
(2)その他
  特性はそこそこであっても、電池の寿命、更なる小型にして軽量化を要望して欲しい。
  販売価格はどうなるのか、特ラ連で扱っているA型ワイヤスマイクの本数だけでは相当高価になってしまう。B・C型などと共用部品にならないと廉価にするのは難しいだろう。
  将来は一対向づつ送受を決定すると割り込めない仕様にしたら、運用調整という機関はなくなるのではないか。
  基本的には各社のワイヤレスマイクの互換性が欲しい、諸々の関係で不可能ならせめて受信機は共通にならないか。他社の送信機に対してある程度の音質低下になっても共通受信出来るメリットは現場にとって大きい。
 等、多ch化を中心に短い時間であったが活発な意見交換があった。

5.今後
 ユーザーである、会員社の皆様には、この様な時代の流れをご理解の上、デジタル化に向け、どう云うワイヤレスであったら良いのか、早急にあらゆる角度からご意見をお伺いして、いきたいと思います。
 実験については委員でなくても参加できる様になっておりますので、必要に応じて積極的に参加して欲しいと思います。
 具体的な問題点・疑問点については技術委員会の委員かARIBの会議に出席しております、我々に遠慮なく声をかけていただきたいと思います。

03.08.12. 文責:田中 章夫