ゼネラル通商株式会社主催の「ワイヤレスマイクロフォン技術セミナー」が、去る9月13日東京フォーラムにおいて開催されました。その内容をここにご紹介します。
 特定ラジオマイクは、最初FPU4帯だけしかなく、マルチチャンネル仕様最大10ch.同時使用でスタートした。そのころSENNHEISERは、独自の発想と優秀なRF技術で、最大14ch.同時使用にマルチチャンネル仕様拡大を実現しました。その後、関係者の方々のご尽力により、特定ラジオマイクの周波数帯域にFPU2帯が追加され、最大28ch.同時使用が可能になっています。
 もうこれ以上のマルチチャンネル仕様での同時使用チャンネル数の増加は無理だと思われていましたが、9月13日東京国際フォーラムで開催された“SENNHEISER ワイヤレスマイクロフォン技術セミナー”中でMr. Klaus Willemsenは、更に4ch.プラスした最大32ch.同時使用可能が実現したと発表しました。B型も使用すると、更に5ch.増えて最大37ch.同時使用可能になります。
 今までの28ch.仕様では、主に受信機側の技術改良でしたが、32ch.仕様は、主に送信機側の技術改良によって実現しました。

図 1 従来の送信機 図 2 改良した送信機

 図1と図2を比較して頂くと一目瞭然です。
 この図1と図2は、送信機2台を10cm離して電波を同時に出した時に送信機でIM(インターモジュレーション:周波数相互変調)により発生する電波を表しています。内側の2つの山が送信している電波でその外横の小さい山がIMによる電波です。改良された方の送信機は、従来の送信機より約20dBもIMによる電波の発生が抑えられていることが分かります。
 この技術の詳細は、難しいので省略しますが、送信機でIMが発生する原理は、送信機のアンテナは送信用ですが、他の電波を受信もしてしまいます。この受信した電波が、送信機の終段パワーアンプで増幅される段階でIMを発生させてしまいます。
 おおもとの送信機からのIMによる電波の発生を抑える事により受信機側のアンテナシステムもよりシンプルに出来ました。
図 3 従来のアンテナシステム 図 4 改良したアンテナシステム

 図3は従来のB型を含め34ch.仕様のアンテナシステムブロックダイアグラムです。アンテナブースターの後のラックマウントスプリッターで各周波数帯を細かくフィルターで分割しているのが分かります。一方、図4の改良した方のアンテナシステムは、アンテナのブースターに新開発のリニアーヘッドアンプを使う事とIMの発生を抑えた改良した送信機を使う事を前提に作られ、大きく2つに分けるだけでB型を含めた37ch.仕様を実現しています。

 最初に書くべきだったかも知れませんが、この最大37ch.同時使用可能システムの必須条件は、もう1つあります。受信機にSENNHEISERの5000シリーズのレシーバー“EM1046システム”を使う必要があります。この“EM1046システム”は、図5 インターモジュレーションに対する安全率に表される様に、インターモジュレーションに対する安全性が群を抜いて高く設計されています。と言う事は、“EM1046システム”なしには、この最大37ch.同時使用可能システムは、実現しなかったと言うことです。
図 5 インターモジュレーションに対する安全率

 次に、“SENNHEISER ワイヤレスマイクロフォン技術セミナー”の内容ですが、送信機、受信機、イヤーモニターそれぞれについて各部の技術的説明が2時間以上にわたり解説が行われ参加者からは解かり易かったと好評でした。
 主な内容だけをピックアップすると、変調レベルの重要性、受信アンテナシステム、チャンネルプランの重要性、イヤーモニターシステムなどがあります。

図6 変調レベルの重要性 図7 周波数プランの重要性

                
 変調レベルの重要性は、図6を見て頂ければ解かると思いますが、ワイヤレスマイクでは、人間の耳につき易い高域のノイズを低減する為、送信機側のプリエンファシスで高域を持ち上げて受信機側のディエンファシスで元に戻すという技術を使っています。この時、音声入力レベルが高過ぎると、過変調にならない様に変調にリミッターが掛かる為、高域がカットされてしまいます。また、音声入力レベルが低過ぎるとS/N比が悪くなってしまいます。ワイヤレスシステムの性能を生かす為には、適切な入力レベルにセットする事が重要です。
 チャンネルプランの重要性は、図7を見て頂くと一目瞭然です。24 MHz幅で16 波同時使用すると第3次IM迄の計算で図7のようになり、電波的にはこんなに満杯の状態になってしまいます。図が小さく解かりにくいと思いますが、実際に使用する電波の周波数にはIMが発生していないのがわかると思います。もし、この状態でチャンネルプラン以外の周波数を送信すれば、チャンネルプランでせっかく作った電波の周波数にIMが発生してこのチャンネルプランの意味がなくなります。この状態では、使用中にIMによるノイズ、消音、等が起こる可能性があるという危険な状態になると言う事です。
 イヤーモニターシステムについては、運用の要点がまとめられているのでそれを紹介します。

表1 イヤーモニター運用の要点 図8 指向性アンテナの使用

 表1を少し説明しますと、イヤーモニター使用時は、当然同じ出演者がワイヤレスマイクも使用しています。その状態は、送信機のすぐそばで受信機を使用する為、同じ周波数帯では、受信機のブロッキング現象が起きます。これを防ぐ為にイヤーモニターとワイヤレスマイクは、離れた周波数帯を使用する必要があります。
 また、Mr. Klaus Willemsenは、外部アンテナの使用で指向性アンテナの使用を薦めています。日本の電波法では、使用アンテナのゲインは、2.14dBi以下と決められているので、日本では使用出来ませんが、指向性アンテナを使用して反射波の発生を抑えデッドポイントと呼ばれるシングル受信機での電波の途切れをなくそうという考え方です。
 “SENNHEISER ワイヤレスマイクロフォン技術セミナー”の講演後、休憩を挟んで、特定ラジオマイク利用者連盟 八幡 泰彦 理事長を議長に、現在業界でご活躍中の、新国立劇場 渡邉 邦男 音響課長、スターテック 志村 明 代表取締役社長、MSIジャパン 藤井 修三 代表取締役社長、劇団四季 金森 正和 音響担当、各氏によるパネルディスカッションが行われました。
 なぜSENNHEISERのワイヤレスシステムを採用されたか等、SENNHEISERのワイヤレスシステムに行き着いた経緯が話され、その後、未来のワイヤレスシステムに対する希望や要望が話し合われました。
 パネルディスカッションの中で、主な話題は、音場位置情報、規格の世界共通化、等がありました。
 音場位置情報は、音場の定位の技術は、殆ど確立されているので、ワイヤレスマイクの位置情報が得られれば、ワイヤレスマイクの移動(ワイヤレスマイクを付けている役者さん、シンガーの移動)と共に音場移動がスムーズに出来るので、将来のワイヤレスマイクには、音場位置情報を得られるように出来ないかと言うものです。Mr. Klaus Willemsenによると現状では難しいとの事でした。
 Mr. Klaus Willemsenは、SENNHEISER のワイヤレスマイクの仕様を各国の電波法に合わせて認可を取得する仕事もしているので、各国の電波法に精通していますが、現状では、各国の電波行政に違いがある為、規格の世界共通化は、難しいとの事でした。
 最後になりましたが、 “SENNHEISER ワイヤレスマイクロフォン技術セミナー”には、約100名のご来場を賜りました。お忙しい中、多数ご来場くださいまして誠にありがとうございました。紙上をお借りしてご来場くださいました各位様には、ここに改めて、御礼申し上げます。 

[編集部]レポートの図6に間違いがありました。ホームページは修正してあります。申し訳ありませんでした。