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 4月8日(日)、9日(月)両日、世田谷生活文化情報センター(くりっく)において文化庁アーツプラン21の助成、日本舞台音響事業協同組合の共催により行われた。
 この講座は、経験3年以内または音響家をめざす学生を対象にしたもので、舞台の基礎に重点をおいたものである。8日はシアタートラムにて「若手舞台音響家によるパネルディスカッション」と、ファシリテーターによる「コミュニケーション能力の向上について」、9日は世田谷パブリックシアターにて「舞台技術の基礎知識」と題して、「舞台機構」、「舞台照明」、「舞台音響の基礎」の3部構成で行なわれ、50名ほどの受講者が集った。そのなかの「舞台音響の基礎」を取材させていただいたので報告します。

サウンドチェックの説明を聞く受講者たち
 今回、一番のアイデアは、ホールでコンサートをPAするという設定で、講習する立場の方々が、サウンドクルーおよび会館側の担当者、はたまたアルバイトなど、それぞれ役どころを決め、会場への機材搬入から撤収までの実際をステージ上で模擬的に再現したことである。
 ミキサー卓や機材を車から降ろし搬入するところから始まり、会館担当者との打ち合わせ、セッティング、サウンドチェック、リハーサル、本番と、実際のバンド演奏を含め、現場と同じ流れで進行していくなか、要所要所で、注意点や大切なことをアドリブを加えながら説明し、時には受講者の方々をステージに上げながら体験してもらうという趣向は、今まであまり例をみないだけに新鮮に感じた。搬入時のミキサーケースの立て方や寝かし方、マイクケーブルの引き回し、マイクスタンドの立て方など、なぜこうしたほうがいいのか、また、こうしてはいけないのか、理由を明確にすることで納得できる仕組みになっていて、普段なにげなく行っていることでも、それが理屈に裏打ちされているものであることがわかり、若い技術者にとってかなり勉強になったはずだ。
 ここで、今回使用したテキストについて触れたい。「舞台音響基礎講座T」と題されたこの冊子は非常に丁寧にできていて、舞台機構、照明を含んだ基本的な実務内容を中心に、スピーカのリギング・スタッキングなど、設置の際の安全性確保について、また舞台音響のプロとしての心構えが、図や表を多く使いながら書かれてあり、コミュニケーションをうまくとりながら、安全に仕事を遂行していくということがいかに大切なことなのか、わかりやすく説明されている。
 徹底して初心者の視点にたって書かれたこのテキストは、現場に持ち込んでも決して邪魔にならないだろうし、中堅として活躍している人が、行き詰まった時などに読み返すのにも適していると思う。
 講習の最後のバラシでは、受講者全員が参加して、もとの状態にきちんと戻して完了。講習会もすべて終了。講師の方々のスマートな進行のもと、決して押し付けではなく、知識や経験を真摯に伝えようとする熱意を感じとれた本講習会は、音響家をめざす人や若い技術者の基礎レベルのボトムアップをはかる意味で、今後、全国各地で行われるよう望みたい。                           (青木)

 
受講者も一緒に撤収作業